カマキリフランス

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第15話 感謝の言葉も菓子折りも

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呼んでも返事なんてしないし、指で突いても見向きもしないんだけれど、手を差し伸べれば登ってくる。上に上に登りたがるのは煙もカマキリも一緒で、放っておいたら頭の上まで登ってくる。そうなると鋭い爪先が髪に引っかかってややこしいことになるので手の上をずっと歩かせる。右手終われば左手、左手終われば右手。飽きない。いつまでも歩く。どっちかっていうとこっちが先に飽きるし疲れるのでそんな時はゴートゥー観葉植物。これに乗せてりゃ誰も飽きない疲れない。色々な表情を見せる。今日も優しい顔だ。

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ティスは脱皮を失敗しかけたことがある。何度も繰り返してきて、いよいよ最後の脱皮というところでのハプニングだった。その日僕は夜遅くから始まった脱皮をずっと見ていた。スタートから明らかに状態は不安定だった。後に全体重を支えることになる四本の脚の内、一本がどこにも引っ掛からずに外れていた。そして数分後にはもう一本外れて支えは二本に。すでに脱皮は中盤。もちろんティスに持ち直すことは出来ない。脚を引っ掛け直すなんてことも出来ない。それはすでに抜け殻なのだ。脱皮は自らの重みを利用して身体を引きずり出す。そのため右に左に激しく身体を揺さぶる。揺れに耐えきれず落下するティス。僕は慌てて虫籠の蓋を開け、さっきまで支えとなっていた二本の脚を持って宙に浮かせた。落下の衝撃で少し曲がってしまった首も次第に真っ直ぐになり、ぴくぴくと動かし始めた立派な脚で草を掴むまでの約一時間持ち続けた。なんとか無事に終わってくったくたのへっとへと。感動もそこそこに寝た。ティスからは感謝の言葉も菓子折りも無かったけれど、根元でくしゃくしゃに丸まってた翅を伸ばすことに必死だったのだろう。数時間後それは綺麗に伸び、見事に大人のカマキリへと変貌していた。そりゃあなんとなく胸が熱くなったものである。

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11月も半ば、ティスにいよいよ衰えが見える。若い頃より浅黒くなった身体、体重を支えにくくなった脚、薄く膜が張ったようにくすんだ眼。死が近い。別れが近い。卵はいくつ産んだろう。5つか6つ。それらはいずれ近くの草地に置きに行く。春、ティスの子に出会えることを願う。



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by kamafra | 2010-11-23 09:19 | 二代目ティス